関西ナンバーワン進学塾 激戦区関東に“殴り込み” 

04/10/20 東京新聞
『灘中学合格者数ナンバー1』を看板に、大阪市の進学塾「希(のぞみ)学園」が東京・恵比寿に首都圏初の教室を開いた。「合格まですべて面倒をみる」徹底した生徒との密着感を売りに、関東系進学塾に殴り込みをかけた形だ。しかし東京の保護者はまだ様子見の状況で反応は鈍い。関西流コテコテ指導は東京で受け入れられるのか。 (藤原正樹) 

「首都圏で難関中学突破を目指し大手進学塾に通う児童は、その進学塾の宿題がこなせず、別の個別指導塾に通ったり、家庭教師を付けている例も多い。それでは進学塾として責任を果たしていない。希学園は一カ所で充足する“オールインワン”指導。『合格してナンボ』の関西風したたかさが東京でも成功することを証明したい」 

希学園の前田卓郎学園長(56)はこう挑戦状を突きつける。 

希学園のキャッチフレーズは「難関中学合格のための高級ブランド店」だ。関西の名門塾「浜学園」から分裂し一九九二年に開塾した希学園は、翌年から灘、甲陽学院など関西の有名私立中を席巻。今年も灘中(定員百八十人)に六十九人と進学塾最多の合格者を出し、週刊誌の「中学進学率『合格力』ランキング」では二年連続で全国一位と評価された。現在、関西七教室で約二千三百人の生徒を抱える。 

快進撃の中心になっているのが算数講師歴三十六年の前田学園長だ。

入試分析力にも定評があり、浜学園時代には灘中学の入試問題を的中させた実績もある。「教壇で死んでもいい」と宣言。授業では「克己」と書かれた鉢巻き姿で熱弁を振るう。 

関東一号教室が進出した恵比寿・渋谷地区は日能研やSAPIX、四谷大塚、栄光ゼミナールなど大手進学塾が乱立する激戦区だ。

三年以内に首都圏にあと二教室を開く予定という。 

東京進出のきっかけは「親の転勤で関西から東京に引っ越す児童が増えてきたから」と前田氏は語る。 

「希学園の生徒が東京の難関校を受ける例も多くなった。開塾後、開成中に三十人(受験者四十二人)、麻布中に六人(同十人)、桜蔭中に二十人(同二十八人)が合格した。希学園のシステムが東京で通用することは実証されている。さらに首都圏で活躍する浜学園時代の教え子の子どもが中学受験期を迎え、『東京にも教室を』という要望も多かった」

価格もお値打ち 週6で年80万円  

価格面でも東京で受け入れられる要素はあるという。 

希学園の場合、最大週六日通っても年間費用は八十万円程度で、週二、三日の関東系進学塾の費用と変わらない。実際、他の進学塾から希学園に転塾する理由として「個別指導塾や家庭教師を利用したいが、家計が許さない」という声もある。 

それでも希学園が東京ですんなり受け入れられているわけではない。四月の開校時から問い合わせが四百六十件あり、入塾説明会には約四百人が参加したが、「一学年の塾生キャパ九十人」(前田氏)に対して三年生三十人、四年生三十人、五年生十人にとどまっている。 東西の“文化の壁”も障害になっているようだ。 

入塾を検討するほとんどの保護者から「授業は関西弁なんですか」と質問されるほど、言葉に対するアレルギーは強い。希学園は「授業は『です・ます調』でイントネーションにも気を付けている」と過敏に対応する。 

希学園のポリシーも“コテコテ”だ。「日本の将来を担うスーパーエリート育成」と大上段に構える。

「子どもたちの思考力や創造性をはぐくむ」(四谷大塚)
「受験だけにとらわれない本物の学力を」(SAPIX)

など、ソフトな方針を掲げる関東系進学塾とは色合いがかなり違う。

前田氏が作成した「入試算数答案作成戦略」では「問題用紙が配られたら、裏から透かして読んでみよう。どん欲に受験するのだ」「試験終了の合図があっても、答案回収の指示があるまで書け。最後の最後に『潔く』『格好良く』しても合格点はもらえない」「なりふり構わず答案に取り組め!」など過激な檄(げき)を飛ばす。

家庭環境把握し進学先を勧める 

さらに東西のプライバシー感覚の違いもある。希学園の進路指導では子どもの性格から家庭環境まで把握して、その子に適した校風の中学進学を勧めるが、東京では難しいようだ。前田氏は苦笑しながらこう語る。 

「保護者への入塾説明で分かったが、家庭のことも本音で語ってくれる関西と違い、東京ではプライバシーの壁が予想以上に高い。合格者実績を公明正大に出すために関西では合格者名をすべて出しているが、東京では名前が出ることを嫌う傾向が強い。その結果、関東系進学塾の開成中合格者を合計すると募集定員の倍以上になる。そんなデタラメは関西では通用しないのですが」 

一方、長男を関東系進学塾に通わせる会社員男性(43)は「関西風の“えぐい熱さ”には付いていけない。ビジネスライクな関東系進学塾なら子どもの実力次第でいつでも撤退できるが、関西風熱血指導では引くに引けない。子どもの精神的な負担にならないように、逃げ道を残しておいてあげたい」と希学園を避ける理由を話す。 

希学園の入塾者が伸び悩む理由について、進学塾事情に詳しい教育評論家の小宮山博仁氏は「前田氏の指導技術には定評があるが、首都圏では鉢巻き姿で『エイエイオー』というスパルタ系進学塾は十年前に淘汰(とうた)されている。受験を戦争に見立て徹底的に競争させる方式では、首都圏の知的レベルの高い保護者は引いてしまう。泥くさい関西文化圏ではスパルタも受験時だけと割り切るが、首都圏で希学園が受け入れられる素地はない」と切り捨てる。 

森上教育研究所の森上展安代表は「希学園のオールインワン指導はもろ刃の剣。消費者は関東で実績のない塾に、オール・オア・ナッシングの選択を迫られては戸惑う。受験生の目的や学力に合わせて複数の塾に通わせる『東京方式』にもメリットはあるからだ。希学園が実際に実績を残せるのか様子見の段階だろう。口コミで人気が広がる可能性もある」と分析する。 

希学園恵比寿教室では現在、五年生塾生は算数・国語の部分受講で、受験四科目をフル受講しているのは四年生からだ。前田氏は「真の一期生となる四年生が受験する二年半後が勝負。その実績で生徒数は確実に伸びる」と自信をみせる。 

小宮山氏は希学園の将来を厳しく見通す。 

「残酷な言い方になるが、開成や麻布、桜蔭などトップ校に合格する児童は生まれつきの能力が高く、最初からほぼ決まっている。できない子どもを鍛えて合格させるのは難しい。トップ進学塾の指導内容には大差がなく、合格実績を出せるかどうかは営業力で決まる。希学園が首都圏で実績を出すには、できる児童の“ぶんどり合戦”で勝つしかない」


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